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1. 時の訪れ 10月13日、朝。 おなかのピュッチは40週1日。 何やら生理痛のような痛みを感じて目が覚める。 ここ最近は頻繁に感じる痛みだけど、 今朝は特に痛みが強いみたい…。 臨月の重いおなかを抱えながら、とりあえずトイレへ行ってみると…、 …何やら、生理の始まりのような出血が! 『おしるし』だ!! ついに…ついにこの時が来たんだ! どこかの学校の運動会開催を知らせる花火が上がるなか、 あたしはとりあえずナプキンをあてようと、まだ薄暗い部屋をまさぐる。 …けれど、かなり動揺していたのか、 まだ入るわけがないのに、産後用の産褥ショーツをはこうとしてしまう。。 落ち着けあたし。 落ち着けおちつけ…。 事態を呑み込みながら、ゆっくりと寝室に戻ると、 嬉しいような寂しいような、 複雑な気持ちで旦那さんに話しかける。 「おしるしがきたよ」 「…本当に?」 フトンに入ったまま、 眠そうな顔だけをあたしのほうに向けて、 それでもいつもよりワントーン低い、真剣な声で旦那さんは答えた。 まるで280日分の想いを閉じこめた門が、 外側からふいにノックされたような感じ。 心の準備は出来ていたはずなのに、 いざ身をおかれてみると、 想いは複雑に交錯する。 …今日明日にでも、 ピュッチはおなかから出て行ってしまうのだろうか。 もう…こんな幸せな胎動を感じることもなくなるのだろうか。 じっとフトンでまるくなりながら、 あたしは母と妹におしるしが来たことをメールで伝える。 …すると早速、妹からの返信が。 『ピュッチが、お姉に会いたくて、出て来るんだよ』 …胸があつくなった。 そうだよね…。 ピュッチとサヨナラする訳じゃないんだよね。 やっと、ピュッチに会えるんだよね…。 …もし、 今日このまま陣痛が来たりしたら、 きっと今夜は眠れなくなるから、 今のうちに、眠れるだけ眠っておこう。 腹痛はずっと続いてる。 『がんばろうね…』 こうしておなか越しに撫でてあげられるのも、 今日までかもしれない。 あたしは目を閉じて、 おなかのピュッチに、優しくやさしく話しかけた。 次へ>> |





