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10. ずっと一緒 ―1月17日、午後15時58分。 「……産まれましたよー…!!」 待ち望んだ瞬間に、あたしの体はあった…。 「…男の子ですよー」 「おめでとうございます…!」 嬉しくて、嬉しくて、言葉にできなくて、 あたしはただ、皆の声を聞いている。 「やったぁ…、やった…!」 繋いでいた手を夢中で揺さぶる旦那さんと、 「おめでとう…、おめでとう…!」 そう、何度も繰り返す友達。 「…ありがとう…」 あたしは交互にお礼を言いながら、 静かに、空を仰いだ…。 …やがて、 ハッピーバースデーのBGMが流れ出す。 どうしよう…。 嬉しいのに、 もう頑張らなくてもいいのに、 安堵感で、頭が真っ白だ。 …とびきりのこの時を、震えるほど手をたたいて喜びたいのに、 言葉が見つからない。 「…なんだか、信じられない…」 実直な思いを告げると、 旦那さんは、ただ笑って、 「よくやったね…」 優しく声をかけてくれた…。 そして―――、 「…オンギャァ…、オンギャァー…、オンギャァー…!!」 チュッちゃんが産声をあげる。 力強く、元気な、大きい産声…。 「元気だ……良かった………」 思わず顔がほころぶ。 …胸の内から指先まで、 体はたちまち、優しい安堵感に包まれる。 言葉が見つからないんじゃない。 言葉には出来ないんだ…。 「赤ちゃん、大きいよー」 助産婦さんが処置をしながら、笑顔で教えてくれる。 …あたしは、笑顔を返しながら思った。 ただ、ただ、『良かった』と…。 お腹にチュッちゃんが来てくれた事を知ってから、 喜びだけじゃない。 相当する不安が、毎日ぐるぐると頭を巡った。 でも…それは、 この子の母親になるための試練だと思い、受け止めた。 …だけど、 もう、心配しなくてもいいのかな…。 無事に、産まれたんだよね…。 「…赤ちゃん、抱っこしましょうね」 …やがて、 チュッちゃんが、あたしの胸にやってくる。 「ほら、…お母さんだよー」 真っ赤な体をしたチュッちゃんは、 助産婦さんに脇を支えられて大きく持ち上げられると、 まずは、そのお顔をハッキリとあたしたちに見せてくれた。 「……わぁ……!」 「風友に似てる…!」 …即座に、あたしと旦那さんは口を開いた。 顔の雰囲気もさることながら、 チュッちゃんの口元と顎は、 まるで…風友そのもののようにそっくりだった。 そして…。 「はい、ゆっくり…ゆっくり……」 チュッちゃんは、 助産婦さんの手によって、そのままゆっくりとあたしの胸にあてがわれる。 あたしも、しっかりと抱き寄せる…。 「…うわ……、ママだよ…、ママだよ……」 …ずっしりと重く、あたたかい体。 あなたが、ママのお腹にいたんだね。 嘘みたい。 やっと抱けた…! 「ママだよ、…暁希、ママだよ……」 …決めていた名前を思わず呼んだ。 『暁希』。 …いつも、 希望に満ち溢れた朝が、あなたを迎えに来るように。 どんな時も、 夜明けを信じて、 願いを勇気に変えていけるように。 そんな想いを込めた名前だった…。 …その時、 「……んぎゃあ…!」 ふいに、暁希は大きな泣き声をあげた。 驚いて視線を落とすと、 暁希は、震える腕をいっぱいに伸ばして、 小さな手のひらで、ぺたり、と、あたしのあごに触れた。 …誰彼ともなく、微笑みが漏れる。 「……ママに触りたかったの…暁希…」 安心したかのようにそこで落ち着いている暁希に、あたしは話しかけた。 …そう思ってもいいよね。 ママの、特権だもんね…。 「やった…、やったね、暁希…」 …そう繰り返す旦那さんも、男の子二人のパパになった。 そして風友も…。 暁希を見たら、 どんな顔をするのかな…。 ―やがて、 平穏が戻った分娩室に、 母が父を連れてきて、 そのすぐ後に、 お義父さんとお義母さん、そして風友がやって来た。 「……かざちゃん…!」 あたしは点滴に繋がれたまま、上体だけを傾けて風友を迎えた。 出来るならば、 きつく、きつく抱きしめたかった…。 …だって、 ママのあたしには、一番解る。 ママと暁希と一緒に、 風友も、このお産を頑張って乗り越えてくれたんだよね…。 …偉かったね、 本当にありがとう、風友…。 「かざちゃん…」 あたしはもう一度、愛しさを込めて長男の名前を呼んだ。 …昨夜、初めてママから離れて眠った風友は、 お義父さんに抱かれ、 不思議そうに暁希を眺めている。 「…かざちゃん、…ほら、赤ちゃんだよ」 旦那さんにそう言われると、 風友は、ますます表情を固くした。 …あれ?…と、しばらく反応を伺っていると…、 風友は、 やがてゆっくりと…、微笑んだ。 …その瞳の先には、さっき産まれたばかりの暁希。 ちいさな手をじょうずに動かして、 まるでもう、 目が見えているかのように、皆の顔を眺めている…。 「……あかちゃん…」 風友はそう言うと、嬉しそうにはにかんだ。 「…これからは、皆で赤ちゃんとずっと一緒に遊べるよ、かざちゃん」 …そう言うと、 あたしの胸は、たちまち嬉しさでいっぱいになる…。 もう、 離れることはないんだ…。 なんて素晴らしい事なんだろう…。 …涙がもう一度頬を伝った。 風友も、暁希も、 ママを幸せにしてくれてありがとう。 …ごめんね、パパ。 誰よりも一番幸せなのは、 きっと、あたしだね…。 次へ>> |





