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4. 陣痛が来ない… ―深夜1時頃。 「…どうですか…?」 あたしはAさんの声で目が覚めた。 「寝てたのにごめんね…。陣痛が来てるかどうか、機械付けますね」 …そう言うと、Aさんはあたしの分娩着を脱がせ、テキパキと分娩監視装置を付け始めた。 「すみません…」 あたしは…なんだか申し訳なかった。 陣痛が来て入院を決めたとゆうのに、 こうものうのうと(しているつもりはないけれど)寝てしまったなんて…。 「…それと、今から隣にもう一人、入りますね」 Aさんは機械を付け終えると、 カーテン越しの、もう片方のベッドを視線で促した。 「…はい」 …あたしは、身が引き締まる思いがした。 言うなれば、戦友が来るようなものだもんね。 そして同時に…少し不安になった。 陣痛が…、 なんか、遠のいてる気がする…? …時計を見ると、先ほどの陣痛から8分近く経過していた。 焦りながら待っていると…、すぐにお腹は痛くなってきたけれど、 この時のモニターを見たAさんの反応は、 『まぁ…様子をみるしかないかな』 といった、微妙なものでした…。 ―そのほぼ同時刻。 隣のベッドに、先ほどAさんから聞いていた妊婦さんが入ってきた。 カーテンで仕切られているので、もちろん姿は見えないけれど、 そうとう陣痛が強いのか、 看護婦さんに気遣われながら、苦しそうにハァハァと息をあげている…。 大丈夫かな…。 あまりに辛そうで、あたしは思わず胸が痛くなった。 そして思った。 本来はあたしも、あれくらい辛くなきゃいけないハズなのに…。 …なぜか自分がひどく場違いな気がして、 あたしはそっと、お腹のチュッちゃんに手をやった。 …平気だよね。 ママとチュッちゃんも、 すぐに頑張らなきゃならない時を迎えて、 堂々と戦うんだもんね…。 ―早朝。 しかしあたしはまた、Aさんの声で目が覚めた。 あれから約3時間が経過していたのに…、 一度も痛みで目が覚めることがなかった。 …そう。 どうやら完全に、陣痛が遠のいてしまったみたい…。 「困ったね…」 あたしとAさんは溜め息をつく。 もはや陣痛は10分以上間隔が空いてしまい、 この時間のモニターからも、子宮に強い張りが来ていないことは明らかだった。 「とにかく…朝、先生に処置を決めてもらおうか。予定日は過ぎてるから、家に帰されることはないと思うんだけど…」 「はい…」 あたしは、ただただ身をちいさくするしかなかった…。 Aさんの見解では、 この陣痛とおぼしきものは、昨日の内診の一時的な影響かも…とゆう事でした。 (陣痛が来るようにと、先生に子宮口を刺激してもらったんです) チュッちゃんが自発的に出て来ようとしているわけじゃないので、 もしかしたら…、 まだまだ、待たなきゃならないのかな…。 もう、早く会いたいのに…。 ―朝7時半。 あたしは、本当に普通の状態で、運ばれて来た朝ご飯を食べた。 陣痛は、15分…20分と間隔が開き、 痛みも、気に留めていないと気付かないほど弱くなっていた。 …隣の妊婦さんは、相変わらずとてもしんどそうに息をあげている。 自分の吸う牛乳パックのストローの音がやけに白々しく感じて、 あたしは、なんだか恥ずかしかった。 だけど…、 旦那さんに現状をメールしながら、こうも思った。 チュッちゃんが、皆を寝かせてくれたのかな、って…。 『ママ夜は寝たいから、朝に陣痛が来て、昼間産まれるといいね』 …と、たまに話しかけていた事を思い出す。 チュッちゃんは、それを覚えていたのかな…。 ―8時半過ぎ。 母が来てくれた。 今のあたしに付き添いなんて大袈裟な気がしたけれど…、 素直に嬉しかった。 母は、昨日出席した従姉妹の結婚式の事を楽しそうに話してくれる。 その様子を見ていると、 まるで、あたしの陣痛なんて二の次みたいで…、 あたしは、なんだか妙に安心した。 …その時、 「先生の診察になりますので、分娩室の前に来てください」 看護婦さんがあたしを呼びに来た。 ―時刻は9時前。 いつの間にか、院長先生の診察時間になっていた。 「…じゃあ、診てもらってくるね」 …あたしはゆっくりと腰を上げる。 うなずく母を陣痛室に残すと、 あたしはいい意味で開き直って、分娩室へと向かった。 次へ>> |





